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私は平成21年3月28日から3日間、インド国境に近いネパールのタライ平原にあるチトワンに行き、辺り一面に咲き競う「沙羅の花」を満喫してきました。ここは仏教を開いた釈尊の生まれ故郷から、100キロほど東にあたり、ユネスコの世界自然遺産「チトワン国立公園」として、自然林が保護されています。東西80キロ、南北23キロのこの公園の樹木の75パーセントはサラノキの林です。サラノキとはフタバガキ科の落葉喬木で、学名はshorea robustaですが、私たち日本人にとっては「沙羅双樹」のほうが親しみやすいです。しかし、この樹木は熱帯性植物のため、古来、中国やわが国には自生しないので別な樹木がこれに見立てられて、「ナツツバキ」や「白雲木」などが知られるようになりました。私は仏陀世尊がクシナガラで涅槃に入られたときに、その身に降り注いだという、インド固有の、本物の「沙羅の花」を見たいと願い、このたび、ここチトワンを訪れました。初めは象の背に揺られて2時間ほどの森林散策でしたが、そのときはまだはるかかなたの森にかすかに見られる程度だったため、改めて、ジープ・サファリをお願いして、チトワンの奥深くへと進んでゆくうちに、あたり一面が沙羅の林となりました。3月下旬はまだ三分咲き程度でしょうか。頭上20メートルから30メートルほどの梢には薄黄色の可憐な花を数え切れないほどたくさん見ました。ジープを止めていただくと、足元には馬耳木と呼ばれるとおり、馬の耳に似た、沙羅の大きな枯葉が何重にも重なってちりばめられた、その上に、あの涅槃の佛身に降り注いだ小さな沙羅の花びらが、既に落ち、また新しく降り注いでいました。その花の蜜香は淡く実に上品な匂いです。ジャスミンの香りに似て、そうでもなく、藤の花の香りに近いがも同じではない。その香が何千本、何万本、いや何十万本、何百万本と、延々と続く沙羅樹林一杯に立ち込めており、時折シカの親子が散歩していたり、水辺では一角犀がたたずんでいたりする、時間が止まっているような空間でした。2500年以前、このあたりで生まれ育ち、そしてこの木の根元で亡くなられた仏陀世尊の原風景を垣間見た瞬間でもありました。この旅は今から12年以前の9月30日、ヒマラヤのサガルマータ県ソルクンブー地区のトプテンチョリン僧院の境内近くの谷に墜落したヘリコプターで殉死したガイド「プルパ・シェルパ」さんの13回忌法事のために私がカトマンズを訪れた際に、遺族のマヤ・ラマさんが案内してくれました。私とマヤさんはそのヘリコプターに同乗していましたが、それぞれ重軽傷で一命をとりとめたので、今回はプルパ氏の供養と沙羅花観賞の旅となりました。